世界中で一番!

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木枯らしって言うの?
北風がビュービュー吹いて、木の葉がまるで吹雪のように舞っているのは、
ほんと見ているだけで寒いなって思う。
実際、寒くて足をがたがた震わせてるんだけど、俺はじっと我慢して
冷たいベンチに座って恋人を待っていた。
 コートでは、大好きな人が、ボールを追いかけて走ってる。
普段の優しい表情も、真剣そのものっていうかんじで、すごく格好良い。
俺は、そんな恋人の姿に自然に「えへへ・・・」と笑みが出る。

 大好きなその人は1つ上の男の人だ。
そりゃ、俺だって、同性を好きになるなんて思っても見なかったけど、
好きなんだから仕方がない。
成瀬さんといるだけで、安心できる。

 本当に大好きなんだ。
こんな素敵な人が俺のことを好きになってくれて
両思いになれたなんて、今でも信じられないくらいだ。
それを言うといつも成瀬さんは、
「僕こそ、ハニーが僕の恋人だなんて。奇跡がおきたって思ってるよ」
って言ってくれるんだけど。



「ハニーー」

 気がつけば、もうすっかり日は傾いて、あたりは薄暗くなっていた。
もう誰もいないテニスコートは、閑散としてちょっと寂しい。
俺は優しい笑みを浮かべている恋人の傍に走り寄って、「お疲れ様でした!」と声をかけた。
俺より、ずっと背が高いその人はにっこりと笑った。


「ハニーごめんね!寒かったでしょ。もう終わりだから」
「大丈夫ですよ!俺、ちゃんと厚着してるし。
このマフラーだって、和希が編んでくれたんだけど、すごく暖かいんです。
それに、さっき七条さんから貰ったこれも温かいし」
 
 そう言って俺は手の中の缶をひらひらさせて見せた。
ここに来る少し前、寒いからカイロの代わりにどうぞと七条さんから貰った缶のココア。
俺は、温くなったそのココアを一口ゴクリと飲んで、「ねっ!」と笑って見せた。

「ねぇ、ハニー」
いつもより、少し低いトーンの声。優しい恋人の瞳が、ぐっと細まって俺を見つめている。
普段と違う恋人の仕草に俺はあれ?って思った。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、今度は、持っていた缶を取り上げると横のベンチに置く。
そして、ちょっと困ったような顔をして、今度は俺の手首を力いっぱい、ぐいと掴んだ。

 大好きな恋人は、いつも俺の嫌がることなんかしない。
いつだって、ぐずぐずに甘やかして、守ってくれる。
・・・成瀬さん、どうしたんだろう??
優しいはずの恋人のいきなりのこんな行為に俺は驚いて、大きく眼を見開いた。
次の瞬間、その綺麗な顔が目の前に迫ってきたかと思うと
ぐっと引き寄せられて力いっぱい抱きしめられた。

「な・・なるせ・さん」
その力の強さに俺は息も出来なくなりそうだ。

「啓太」

優しいキスが髪に落ちる。そして、俺の首にかかっていたマフラーがするりと外されて
甘い吐息が耳元に掛る。成瀬さんの長い髪が肩口にはらりと散って、俺の頬にふわりと触れた。


「ねぇ・・。啓太。俺以外の人のこと好きなっちゃいけないよ」
「な・・なんですか!それ」
抱きしめられた腕の中で俺は真っ赤になって恋人を見上げた。

「これだよ」
そう言って差し出したのはさっきまで俺の首に巻かれていたマフラー。
「なんかこれを巻いてると、ハニーがお友達君のものみたいに見えちゃってさ」
「な・・何、イッテルンデスカ!」
「だってさ・・・」

首筋をするりと撫でる。その冷たい感触に俺は首を竦めた。
「ハニー、ここのとこ弱いでしょ」
くすぐったがり屋の俺は、確かに首筋とか触られるとそれだけで声が出ちゃうんだけど・・・。
「ハニーのウィークポイントを守るのは僕だけにしたいんだけどな」
「ウィークポイントって!」
「だって・・・。
そんな俺の仕草に、成瀬さんはくっくっと笑ってもう一度ぐいっと抱き寄せると
首筋に顔を埋める


「それに・・・」と言葉を続けて、今度は甘い温もりが唇に落とされる。
そろりと開いた唇の中にするりと触れた舌先がくちゅりと音を立てた。
「あっ・・・・・ん」
強請るように小さく洩れた俺の声に、「甘いね」小さく呟いて恋人がクスリと恋人が笑った。

「君は僕だけのものなんだから・・・」
成瀬さんはちらりとベンチに置かれたココアの缶を見るとそう囁いた。


そして、俺の体をもう一度包み込むように抱きしめた。


俺の恋人は、優しくてかっこよくて、テニスがめちゃくちゃ強くて
お料理が上手くて・・・、すごく焼きもちやきだ。


そして、世界中の誰よりも一番、大好き。

fin


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成瀬さん!はぴば!
2008.12 


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