「MEMO」のページ♪
これから書くかもしれないものや、思いついたものを書いてるメモ書きです。
随時更新。
最後まで書くかもしれないし、放ったらかしにするかもしれないし・・・。

文字書きリハビリ中です。<(_ _)>



(2009/07/25UP)

月蝕(「中啓)


いつもの場所に車を停めて、
暗闇の中、星明りを頼りに二人で並んで歩く。

初めて過ごした夜も、こんな月が綺麗な夜だった。
あの時は、どんな話をしたんだろう。
交わした言葉は欠片も覚えていない。
ただ力強い腕と煙草の香り。
熱い情熱と抱擁。
あの時は、これから始まる二人の物語に胸がいっぱいだった。

しかし、今は、一緒に居るだけで心が苦しくなる。

自分の中にはあなたはいるのに
あなたの中には俺はいない。

そのことに気がついたのは何時だったろう。

逢えば、ただ、体を重ねるだけ。
それだけの関係。
抱きたい時だけに、逢う。
これが、愛なのかと問われれば
それは否。
わかっているのに、認めるのが恐くて 知らないフリをした。


しかし、もう今日で終わりにしよう。
これ以上そばに居るときっと心が壊れてしまうから。

俺は、本当の俺を愛してくれる人を捜すんだ。
そう思って、意を決してこの人に逢いに来た。


静かに響く虫の音と
谷川から聞こえてくるのだろう・・・蛙の声だけが
二人の間の空気を震わせていた。
停めた車は、もう見えなくなってしまって、それだけでも
不安になる。
いつの間にか、月が雲に隠れて、あたりは深遠の闇。
先に行くことを躊躇う俺に、その人は振り向いた。

「どうした?」
「なんか。気持ち悪いです 」
「何故?」
「なんか出てきそうじゃないですか?怖いです・・・」


街灯もない
星の光さえも届かないその場所を、少し目を眇めて俺は見つめていた。


「何か出てきたら怖いから、行きたくない」
そう言って少し頬を膨らませて、冗談交じりに彼を睨んだ。
それは、本音でもあり、闇を恐がる俺を試す彼への抗議の言葉でもある。
二人過ごす時はいつも彼は困らせてばかりだった。

後ずさりをして、繋いでいた手を振り解こうとすると
すると、ちょっと苦笑いをして彼が振り向いた。


「どうして怖い?俺がここに居るのに」



ずるい。

これはフェアじゃない。
そんなことを今更口にするなんて。
優しい言葉を口にしたことなど今まで一度もないのに。

いつの間にか雲間から姿を現した月の放つその光が
ふわりと彼の髪をきらりと照らした。



何度も捨ててしまおうと思った恋だった。

二人には、最初から沢山の障壁ありすぎた。
結局は、彼の情熱に引っぱられて
ここまで来たということしか思いつかない。

この恋は、誰にも気づかれてはいけない恋だった。
赦されるはずのない
同性という壁。
だから、今日こそは、「さよなら」と言おうと、思ってきたのに。



離れようとする俺の手を、少し強く握って引き寄せると
包み込むように抱きしめた。
冷えた体がジワリと彼の体温で暖かくなる。
その腕の中で、俺はほっと息を吐いた。


「どうしてメールをしないんだ?」
抱きしめたまま、耳元でそう囁く。

その子供っぽい無邪気な笑みに思わず見惚れてしまった。

「メール?俺、してませんでしたっけ」

「それって、俺のメールに返事出すときだけだろ」
その一言に、俺は、驚いて彼の顔をうかがうように見上げた。


確かにそうだ。
いつも来るメールに返信をする。
しかし、先にメールを出すことはない。

だって、きっとそれを望まないと思っていたから。
俺が、彼の特別であることはない…そう思っていたから。

でも、心では、いつも
小さなことでも
告げたいと思っていたんだ。

普通の恋人達がするような
そんな甘い行為を。

でも、迷惑で煩いと思われたくなかった。
呆れられるのが嫌で 出せないメールを何度削除したことだろう。
幾ら頑張っても乗り切ることできない時間という壁を
乗り越えられない自分が居た。


「いいんですか?メールしても」
自分の中の負い目を思わず露呈してしまうような震える声で私が問う。
すると、目の前の美しすぎる恋人はクスリと笑って頷いた。

「いい。返事出せないかもしれないが」

「煩いと思われるくらいメールするかもしれませんよ」
「ああ、かまわない」

そう言って、彼は、少し意地悪な笑みを浮かべ、そっと唇に
温もりを落とした。



fin

(2009/03/06UP)

「今夜は、僕の部屋に来てください」

そのメールが届いたのは、3時限目の終わりだった。

あの人とそういう関係になったのは、誰にも知られてはいけない。
俺には、和希という大切な人が居て、あの人にも大切にしている恋人がいる。

隠さなければいけない秘密。


「いけない人ですね」
暗闇の中、微かに届く星明りをその瞳に映してその人は微笑んだ。
冷たい手がそっと俺の肌を撫でて、乳首に指先が触れる。
抓まれて、優しく快感を煽るような仕草に、
俺は唇を噛みしめた。

「声を聞かせて」
耳元で囁くその声は、擽るように心を侵していく。
俺は、頭を振ってそれを拒んだ。

だって、きっと強請ってしまうに違いない。
それは、心のプライドまでも粉々にされてしまう。
体は、重ねても、心までは征服されたくない。

しかし、
彼は、クスリと笑って、もう知り尽くしている俺の感じる処を
残酷なまでに弄っていく。

我慢しきれずに俺が哀願するのを待つように。



そして、俺は、陥落した。






(2009/02/20UP)
なんか思いつきで打ち込んだもの。最低や・・・私(苦笑)
ってか、これを堂々とここにUPしてもいいものだろうか。ちょっと迷うけども
ま、いいか・・・。なんか言われたら言われた時ってことで.


******************************************


草むらに隠れて息を潜めた。
啓太は、走った。あの人から見つからないように。
気がつけば、あたりは暗くなって眼を凝らさなければ1メートル先だって上手く見えない。

「み・・つけた」

耳元で聞こえた低い声に心臓が止まりそうになった。

「こんなとこに隠れてたなんて、悪い子ですね。伊藤くん」

一瞬逃げるのが遅れた啓太の腕をぐいと掴むと声の主はくすりと笑った。






「は・・はっ・・・あ・・・やだ」

空に昇る月明かり。見えるのは、引きちぎられたシャツの切れ端

ぐちゅり

耳に届くのは、淫らな音と男の吐息


「いやなんですか??こんなになってるのに」

そういうとその人は先走りにぐしょりと濡れた啓太の屹立をぐいっと
掴んで乱暴に擦りあげた。

「あ・・あっ・・・うっ・・・や・・め・・・て」

背中を走り抜ける快感に思わず腰が揺らぐ。胸に触れた男の指が乳首をグリグリ捏ねる
そのたびに甘い痺れがはしってガクガク震えてしまう。
後ろから抱きしめていたその人はぐいっと啓太を振り向かせると唇を重ねてきた。


「伊藤くん・・・これは罰なんですよ」

抱きしめた男の目は楽しそうに光った。

「ば・・つ??」


後ろに入れられた指を感じながら啓太は息を吐いた。

「そうです」

男はそういうと指をまげて深くぐるりと回した。
深く感じる場所をぐりっと押されて陰茎からはぱたぱたと蜜が零れた。



同性に抱かれるのは初めてではない。
愛しい人に拓かれた体はそこで感じることを覚えている。
啓太の体を押えて男は嬉しそうな声で笑った。

「感じるの?ここ」


二本の増やされた指に何度もそこを擦られると
心の箍が壊れそうになる
男は楽しそうに

「じゃ、こうするとどうなるんでしょうね?」

啓太の左足を肩に乗せる。浮き上がった腰に顔を寄せて
今にも破裂しそうなものを口に含んだ。

大好きな人とするものだと思っていた。

それ以外、感じることは心が赦さない。
でも、
熱く滑る、そして、快感を搾り取るように上下する男の口唇。
アナルを激しく抜き差しする指先

濡れた水音が感じていることを知らせている。
唇が傷付くほどに噛みしめて、達することを拒む啓太にその人はにやりと笑った。

「我慢しなくていいんですよ。
それに、例え、それが君自身でも、君を傷つけることは僕が赦しません」

男はそう言って、宥めるように唇に優しい温もりを落とした。
舌先が唇を優しく辿り、深く入り込んでくる。絡みつく舌は、ほんの少し血の味がした。

絡められた指先が、啓太を追い上げる。

「ああ・やだでる・・・でちゃう」
耐え切れず吐き出した白濁を指先に取って、目の前のその人は楽しそうにぺろりと舐めた。



耳朶を甘く食むと耳の穴が舌先で犯される。

ぐじゅっ
ぐじゅっ

耳元で聞こえる卑猥な水音に、達してしまったはずの下半身がぐずり疼く。
反応し始めたそこを見て、耳元の声はふふっと蔑むように笑った。

「本当に感じやすいんですね」

一度放ったそれを纏わせて、上下に擦られると、放つ前のようにもう一度張り詰めていく。

「ほら、もうまたこんなに」

無理やり奪うような酷い事をしているのに男は、まるで壊れ物を扱うように
優しく啓太を抱きしめる。
そして、啓太には聞こえないような小さな声で呟いた。


「郁は、どうやって君を抱くんでしょうね…」




宙(そら)に浮ぶ銀の月。
目の前の人の髪を同じ色だな・・・と啓太は、薄れ行く意識の中でそう思った。
解かれたそこを犯す熱いもの。体の奥を擦るそれを感じながら

どうしてこんなことになったんだろうと思った。

快感を逃がすことができずに、啓太は甘く切ない声をあげる。
後ろに挿入れたそれが感じる場所を激しく焦らすように突き上げる。
そのたびに撓る啓太の体を動かぬように抱きしめて、男は一層抜きさしを激しくした。

淫らな快楽以外何も考えられなくなっていく。

そして、頭の中にさっき男が言った言葉が浮んだ


『これは罰です』


罰・・・とはなんだろう。自分が何かしたのだろうか。
そんな啓太の胸中がわかったのか深く挿入されたそれをじわりと揺らしながら

男は言った。




「君は僕を選ばなかった」



呟くその声はいつも通りの優しい声だった。





(2009/02/0631更新)

*バレンタイン月ということで、ちょこっと書きはじめたもの。
未完。これは、サイト内SSの
Who ever loved that loved not at first sight?
〜まことの恋をするものはみな一目で恋をする〜

の設定を使っています。
今月中に完結させたいぞ(笑)完結すればサイト内へ移動。


**********************************************


カレンダーについた赤い印を指で辿ると啓太は溜息を吐いた

「2月14日かぁ・・・」

それは世間一般では、恋人にチョコを贈る日。バレンタイン。

恋人達のセレモニーとしては重要なその日を来週に控えて、啓太の頭の中には、
「どうしよう・・・」の文字がぐるぐると回る。

『14日の夜は空けておいてくださいね。久しぶりに外で食事でもしましょう』

恋人の言葉を思い出したのは、社長直々の仕事の予定が入ってから3日後だった・・・。


「俺って本当にバカ」

自分の迂闊さを呪っても始まらない。
恋人は、優しい。どうしても抜けられない仕事が入ったと言えば、理解ってくれるだろう。

しかし、彼は存外寂しがり屋で拗ね者だ。
自分の用事の原因が社長からの急な依頼だと知れば、きっとへそを曲げて、学園時代、
よくやっていたように会社のサーバーに悪戯をしたり……なんてこともあるかもしれない。
そうなればそうなったで、また厄介だ。
それに恋人ががっかりする様を見るのは自分としても忍びない。
ここ数週間、互いの仕事が忙しくて、一緒にゆっくりと過ごす時間も取れずにいたのだから。

「やっぱり断ろう」
啓太は思い切って、社長に予定の変更を頼むことにした。
大体、そのプロジェクトは自分の課の仕事ではないのだし、どうして、自分に話が回ってきた
のかがわからない。
どうせ、自分のような一介の平社員。いてもいなくても同じだろう……。
啓太は、意を決して、社長室へと向かった。

ふわりと靴裏に感じる毛足の長い赤い絨毯を踏みしめて、重役フロアの長い廊下を辿る。
廊下の窓は、空をだけを映している。鈴菱の本社ビル最上階。周りのビル群を眼下に従え、
厳重なセキュリティに守られたその一番奥にその部屋は在った。


≪社長室≫

そう書かれた金色の文字の前で、啓太は大きく息を吸い込んだ。
この部屋は何時来ても緊張する。
和希は、いや、会社では「社長」と呼んでいるが、いつでも気軽に来いと言ってはくれるが
周りの視線が気になってそうも足を運べるものでもない。

―――自分のような平凡な人間とこんな巨大コンツェルンのトップと親友同士だなんて、
和希に迷惑掛かっちゃうもんな……。

幼馴染で、同級生で、親友で、そして、今は会社の上司。
ただでさえ、特別扱いされているのに、それで回りに嫌な思いをさせるのは啓太にとっては
不本意なことだ。
実際は、
『伊藤、気をつけないと社長に食われちゃうよな』
『社長って、伊藤先輩を狙ってるよな』
『俺達の手で、伊藤の貞操は守らないといけないよな』
そんな会話が、周りで、飛び交っているってことに、何事にも天然で無自覚な啓太が気づく
わけも無く。有志一同が集まり、「我が社のアイドル 伊藤啓太の貞操を守る会」などというものが
作られていることや、その会長は、医療部主任の篠宮が受け持ち、会員には、テニスプレイヤーの
成瀬や、天才と騒がれている画家の岩井、鈴菱はもちろん、それ以外の会社の重役お歴々が顔を
並べていることなども知る由も無かった。

重厚な扉を眼にすると啓太は今更ながらにこのドアの向こうの人物が、
本当は雲の上の人間なんだと少し怖気づく。
しかし、頭に浮かぶのは恋人の笑顔。啓太は大きく息を吐くと躊躇いがちに、ドアをノックした。

「伊藤啓太です」
「どうぞ」

答える声に招かれて啓太は部屋の中に滑り込んだ。

百畳ほどはあるだろうか、広いその部屋で、パッと目を引くのは、大きなコンピュータキャビネットが
ずらりと並ぶ様で、大企業の社長室というよりもどちらかというとコンピューターの制御ルーム、
サーバールームのような様相を呈している。肌寒く感じるのは空調のせいだろうか。静かな室内に
微かに唸るモーター音だけが響く。
ここが大企業 鈴菱の中枢なんだなと啓太は今更のように眼を瞠った。

「啓太?」

機械に埋もれた向こう、少し開けてパーティーションの向こうから、その声が聞こえた。

「社長……」
「啓太――。二人きりのときは、和希で良いっていってるじゃないか」

そう言いながら、出てきたのは、黒のタキシードジャケットにブラックタイ。
正装した親友の姿だった。

「あ、ごめん、出かけるとこだった?」

光る輪を作るさらりとした髪、色素の薄い青みがかった瞳。
その整った顔立ちは、大会社の総帥というよりもモデルか俳優のように見える。
確か、自分よりははるかに年上だったはずだよな……、啓太は目の前のその人懐こい笑みを浮かべた
親友を見てそう思った。

――― 一体、和希って幾つ何だろう……。


「いや、出かけることは出かけるんだけど……」
「じゃ、出直そうかな」
「いやいいよ。啓太がこうしてここに来てくれるなんて滅多にないし」

首にかけた白いマフラーを外して和希はにっこりと笑った。

和希にとって目の前の愛し子は、誰よりもどんな用事よりも大切なものだ。
出来ればその手を取りたいとずっと思っていた……のに。
あの銀色の悪魔―――のことを思うと、悔しくてたまらなくなる。
二人が仲良く暮らしている今でも、諦め切れない思いで日々悶々としているくらいだ。
それでも、何かしらの行動に出ないのは啓太が幸せそうにしているからだった。

何よりも守るべきもの、それは啓太の幸せだ。

「あの、14日の件なんだけど」

和希の笑みに促されて、啓太は口を切った。
「その日、ちょっと用事があって」

啓太の言葉を聞きながら和希は内心にやりとほくそ笑んだ。
14日に二人が出かける予定なのは、とっくの昔にお見通しだったから。

事の発端は、先日の研究所での会議のこと。
会議室で待っている自分の耳に、廊下を行く西園寺と七条の会話が耳に入った。

『じゃ、その日は来ないんだな』
『すみません。郁。その日は伊藤くんと食事に出かける予定になってます』
『私の誕生日よりも啓太とのディナーか?』
少し揶揄い気味の西園寺の言葉にかぶせるように
『もちろんです』と七条の声が聞こえた。
『じゃ……』
『嫌です』
『なんだ、まだ何も言ってないぞ』
『郁の言いそうなことはわかってますよ。誕生日パーティに伊藤くんを同伴させろというのでしょう?』
きっと図星だったのだろう。少しの沈黙の後
『ほら、やっぱり』
七条の声がクスリと笑うと
『伊藤くんは僕のものですから』
そう言い放った七条の声が耳に届いた。

タダでさえ、七条に啓太を取られていわゆる「ムカついてる」ところなのに
そんな恋人達の甘い日を過ごさせるのを見逃せるはずもなく・・・、

「啓太ぁーー、その取引先はどうしても啓太じゃないと契約しないっていうんだ」
「でも、和希・・・じゃなくて、社長、その日は俺」
「この契約がおじゃんになると、俺・・・困るんだよ」
伏目がちに泣きそうな顔をして、呟く和希を啓太が見て見ぬふりが出来るわけもなく。
「・・はぁ・・・・仕方ないな・・・」
そう呟いた声に、和希は心の中でにんまりと笑った。



(2009/01/31更新Heavenly blueの続き)



暗闇の中、目を開けると、そこはベッドの上だった。

夢…?


口の中がからからに乾いている。張り付いた舌がこわばって声がでない。
体中から噴出した汗でパジャマがぐっしょりと濡れていた。

啓太は慌てて辺りを見回した。

脱ぎ散らかした制服や読みかけの雑誌。飲みかけのマグカップ、やりかけの課題。
そこは見慣れた自分の部屋だ。
枕もとの時計を見ると0:00の文字が緑色にぼんやりと光っている。


「夢だったんだ…」

安堵してほっと息を吐く。
しかし、例え夢でも、それは啓太に取っては考えたくもないことだった。

恋人の隣にいるあの美しい人。
決して憎んでいるわけでも嫌いなわけでもない。いや、むしろ、好きだと思う。
七条に出会わなければ、惹かれていたかも知れない美しい人。

そういう関係じゃないと言ってくれた恋人を信じている。

でも、自分の知らない時を共有してきた二人を思うと胸が苦しくなる。
否定されればされるほど、心の中に黒い闇が沁み込んでくる。

西園寺のその類まれな美貌や、清々しく潔い気質、何者をも凌駕する才能も、
どれをとっても自分が敵う相手ではない。
七条もそうだ。
どこに居ても光彩を放つその才能、その容姿。
この閉ざされた学園の中でさえも、一頭地を抜くそれは、外の世界では
なおさら目立つものだ。そんな七条の横に立つのが自分でいいのだろうかと思ってしまう。

あまりにも似合いすぎている二人に、自分なんかが傍にいてもいいのかと戸惑ってしまう。
そして、そんなことを考える自分が嫌で、余計にたまらなくなる。

「七条さ・・・ん」
小さく恋人の名を呼んでみた。
そして、ここに居ない恋人に、無性に逢いたくなった。


―――七条さん、まだ起きているとは思うけど。
―――メール、してみようかな。

携帯の画面を眺めながら、優しく微笑む七条の面差しを思い出した。
不安な心を吹き飛ばして欲しいと想った。あの腕で抱きしめてもらえれば、
それは夢ですよと一言もらえれば、きっと安心できるに違いない。

啓太は、手の中で持て余していた携帯をもう一度開くとキーに指を掛けた。

《七条さん、今から行ってもいいですか?》

送信。

いつもなら直ぐに返事が来るはずだった。
啓太の望みなら何でも叶えてくれるはずだった。


いつもなら……。


 しかし、いくら待っても、メールの返事が届くことは無かった。





(2009/1/30更新 Heavenly blue)




優しくしないで、このまま憎いと思わせておいて……。

優しくしないで、どうしていいか分からなくなる……
憎む気持ちと許す心、心が壊れてしまうから……。


 Heavenly blue
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銀の髪がはらりと揺れて、啓太の頬に触れる。
薄らと目を開けると煌く紫の瞳が、じっと見つめていた。
その瞳の甘やかさに胸がトクンと打つ。

「気持ちいいですか?」
そう囁くと、恋人はまるで焦らすようにその指先がでそっと胸を撫でた。

体を重ねるのは初めてではない。しかし、何度抱かれても慣れるものでもない。
触れる指先に啓太は体を捩って息を吐いた。

「や・・・やめ・・・・・て」
「やめていいの?」

答えなど判っているはずなのに。紫の瞳が覗き込むように見つめていた。


「愛しています」


銀の髪の人が、囁いた。
自分を抱く狂暴な色を帯びるその瞳も、普段の甘く穏やかな瞳も、どちらも心を捉えてはなさい。

大好きだ。

どうしてこんなに好きなんだろう。抱きしめられるたびにそう思う。
本当に好きになったのはいつからだったろう。
あの星空の下、告白されて、そして、そのまま恋人同士になって・・・。

嫌いではなかった。だけど、そういう気持ちで見たこともなかった。
彼も自分も同じ性を持つものだから。恋愛対象になり得ないと想っていたから。

でも、好きだといわれるたびに、愛していると抱きしめられるたびに
気づかなかった想いは、いつの間にか引き返せないほどに溢れてしまって
自分でも戸惑うばかりだ。

本当に、この人が好きだと想う。

いつも守られてばかりだけど、いつかは自分も恋人を守りたい。
だって、本当に好きだから。

その時がくれば、全てをかけても。きっと守ってみせる。





抱きしめられた腕の中で、俺も好きです・・・と、答えようとした。
素肌に触れる温もりはこんなにも心を満たされる。大きな手が、何度も何度も髪を撫でた。

声をあげようとした時、
その人は、腕の中の愛しいものの名をを呼んだ。


「郁…」

 ……
 ……チガウ。

「愛していますよ。僕の郁」

……チガウヨ。
……ソレハオレノナマエジャナイ……


悲鳴のような声が口をつく。
その瞬間、啓太の体がふわりと空を切った。








*これは、一月のインテ用の原稿でした(間に合わなかった・・・自爆)
暫くはこれで続けます。
サイト用に書いたものを手直ししています。





2009/01/28更新

★これの続き。


あの日から、七条さんは前よりも一層優しくなった。
そして、片時も俺を放さない。
そうあの日。俺が中嶋さんに抱かれたあの日から。

俺が何を言ってもにっこりと笑って頷いてくれる。優しく抱きしめてくれる。
その愛情に包み込まれて俺は幸せな気持ちになる。

あれから、中嶋さんに出会う度に、あからさまに俺を庇ってくれる。

その度に、守られていると安堵する。
七条さんの傍に居れば、俺は俺で居ることができる。
このままこの腕に抱かれて、全てを七条さんに任せてしまえば、
その温かい愛情に包まれて、きっと幸せになることができるだろう。




でも、


俺は気がついてしまったんだ。


俺を見つめる微笑の後ろに隠れた七条さんの本当に。
苦しそうに見つめるあの人の瞳を。
まるで壊れものに触るように俺に触れるあの人の指先を。


きっと気づかれているに違いない。


中嶋さんを見る度に、揺れてしまう俺の気持ち。


『啓太、お前が好きだ。愛している』
あの人の声が耳について離れない。あの人に触れられた感触を忘れられない。
この体を力ずくで支配したあの人の熱が心に刻み込まれてふとした瞬間に甦る。

それに、あれ以来、七条さんは俺に触れてこない。
それも俺があのことを忘れられない理由の1つ。

「無理をしないで。キミの心が癒えるまで僕は待ちます」と言ってくれるけど、
きっと、穢れてしまった俺なんかに触れることも厭わしいに違いない。
自分以外に抱かれて快楽に溺れた恥知らずなんかその手に抱く価値さえないと
きっとそう思っているに違いない。





本当に俺を救ってくれるのは誰?

本当に俺を愛してくれているのは誰なんだろう・・・。







2009/01/26更新

告白をされた。

好きです・・・と。

そのときになって、自分が本当に好きな人が誰なのか・・・。

初めて気がついた。


俺って、
本当にばかだ・・・。


本当は、
本当は


大好きななのに・・・。





「True love」




け・・けいた・・・
けいた・・・・

啓太
啓太!



重い瞼を薄らと開くと、そこには心配そうに覗き込む親友の顔があった。


「もう、8時前だぞ。大丈夫か?」

心配そうに覗き込むと友人の目は、どこと無く憐れみに満ちていて俺の心にちくりと針を刺す。
それが何故かわかっているから・・・。

「大丈夫だよ・・・。放っておいてくれれば良かったのに」

そんな投げやりな俺の言葉にも、全然気も掛けずにさっさと制服の用意をしてくれる。

俺は心の中で「ありがとう・・・」と呟いた。

「っ・・たぁ・・・」

手荒く扱われた体はぎしぎしと悲鳴をあげる。
体の奥はずきりと痛むし、多分、熱もあるのだろう・・・
起き上がると頭がくらりと揺れた。


昨夜もその前も、あの人に抱かれた。
自分の好きなときにあの人は俺を抱く。

俺の都合などお構いなしだ。

愛情など感じられないそれは、俺の体も心も傷つける。
それでも、体は痛みの向こうに快楽を見つけてしまう。
恋人としても扱われず
ただセックスだけの関係。

セックスフレンド・・・いや、それ以下の
ただの「もの」としか見ていないあの人。

性のはけ口でしかない・・・。


どうしてこんなことになったのだろう。
あの腕に抱きしめられると、体が悦んでしまう。

・・・欲情する・・・。

あの人に植え付けられた肉欲の焔は、直ぐに燃え上がって
それに飲み込まれてしまうのだから・・・。

・・・「お前みたいな淫乱な奴ははじめてみた」
あの人が俺を始めて抱いた時に言った言葉。

・・・「初めてで挿れられて感じる奴はそういない」
そう言って、蔑むように笑って、何度も何度も貫き穿った。
俺は、悔しくて、辛くて、でも、それさえも凌駕するほどの快楽に絡め取られて、
何度も何度も白濁を吐き出した。そして、あの人は、その蜜を指で掬っては「淫乱」と囁いた。

どんなに酷く扱われても俺は、あの人を拒絶することが出来なくなった。

捉われたんだ。





痛む体を引きずって何とか俺は登校した。和希は心配して、やっぱり休めといったけど
俺は意地でも学校へ行くことにしたんだ。
俺が休めば、あの人はまた俺を軽蔑したような目に見るだろう。
自分を受け止められない俺の方が悪いと想っているのだから。


授業は、何とか乗り切った。